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ロボットサッカー世界大会 RoboCup 2005参戦記
2005/10/25
大阪電気通信大学 総合情報学部
メディアコンピュータシステム学科
升谷 保博
目次
- RoboCupとは
- RoboCup2005
- 試合
- 動画(WMV形式12MB・ MPEG1形式34MB) で観戦
- おわりに
- 関連リンク
RoboCupとは
RoboCupとは,ロボット工学と人工知能の融合,発展のために自律型ロボット によるサッカーを題材とする国際プロジェクトで,その競技会は1997年から始 まりました.私は,大学院生のときからロボットの研究を行ってきましたが, RoboCupの考え方に共感し,1998 年ごろからRoboCupを題材とした研究を始め, 2000年に初めて国内大会に出場しました.その後,国内大会にはほぼ毎年出場 し,2001年と2002年には世界大会にも出場しました.
RoboCupにはいくつものリーグ(部門)がありますが,私の参加しているのは 「小型リーグ」です.小型リーグは,3.4m×4.9mのフィールド上で,直径 180mm以内のロボットが,ゴルフボールを使ってサッカーを行います.1チーム のロボットは5台以内で,これらは全てコンピュータによって自動制御されて おり,試合中は人間は手を出すことはできません.
RoboCupの小型リーグでは,カメラや画像処理機能までをロボットに搭載する ことが難しいため,各チームがフィールドの上空にビデオカメラを設置するこ とが許されています(それを天井カメラと呼んでいます).カメラで撮影した 映像を,コンピュータが画像処理してロボットやボールの位置を把握し,それ に基づいて作戦を立て,各ロボットに無線で指令を送ります.また,各ロボッ トの上にも小さなコンピュータが載っており,指令に基づいて車輪を動かすモー タやキックデバイスを制御します.
RoboCupに出場するには,機械,電子回路,コンピュータなどの知識や技術が 必要で,どれが欠けても強いチームにはなれません.その中でも,研究として 興味深いのは,刻々と変化する環境の中での実時間の行動決定や複数のロボッ トの協調制御のアルゴリズムです.天井カメラを使うと,フィールドの全貌を 把握できますから,人間のサッカーとはかなり違っており,中央集権的なシス テムになります.私たちのチームでは,自律分散システムの研究を重視するた めに,敢えて,各ロボットの行動決定プログラムを完全に独立させています.
RoboCup2005
さて,今年の世界大会RoboCup2005は7月13〜19日に大阪の南港にあるインテッ クス大阪で開催されました.
今回の大会には,大阪電気通信大学と大阪大学の合同チームで出場することに なりました.大阪大学で開発してきたソフトウェアと大阪電気通信大学の予算 で新しく投入したロボットを組み合わせての参加です.なお,チーム名は 「OMNI」(オムニ)といいます.
私たちのチームの参加した小型リーグには,1月に事前登録した44チームから, 論文とビデオによる審査で選ばれた19チーム(10ヶ国)が参加しました.このうち,日本からの参加は7チームです.競技は,4グループに分かれた総当りの 予選リーグが最初の3日間で行われ,各グループの上位2チームが決勝トーナメ ントに進みます.私たちのチームが振り分けられたDグループには,私たち以 外にオーストラリアのvienna cubes,アメリカのCornell BigRed,メキシコの Eagle Knight,日本のOsaYansがいます.
一般公開される試合が始まるのは7月13日からですが,チームはその2日前に大 学からロボット,カメラ,PCなどを運び込み,会場でそれらを設営し,さまざまな調整を行います.予選の3日間は,朝から夕方までの1時間間隔で2試合が 同時に進行します.一つのチームにとっては,1日1回か2回の試合ですが,合間に他の試合の審判をしたり,有力なチームの試合を観戦したり,情報交換をしたりしています.私たちのチームは調整が遅れていたために,予選の途中にもプログラムを書き換えたり,動作チェックをするということを繰り返していました.
試合
動画(WMV形式12MB・ MPEG1形式34MB) で観戦
7月13日
対OsaYans(日本)戦
OsaYansは大阪大学の大学院工学研究科の授業でRoboCupに取り組んでいるチー ムです.メンバが少なくロボットも旧式なのですが,昨年の国内大会ではOMNI は負けています.その雪辱を果たすべく,新ロボットで再挑戦.ほとんどフォ ワードの1台だけで攻め,相手の隙をついて2点先取,しかし,ペナルティキックで1点を返されてしまいました.2-1で勝利.
7月14日
対Eagle Knight(メキシコ)戦
事前の情報では強そうでしたが,システムの調子が悪いようで,ロボットの台 数を減らしています.これはチャンス.しかし,開始早々にこちらのシステム の動き出しが遅く相手にシュートを決められてしまいました.その後は,相手 の動きは悪く,2点を返します.勝てた試合と思いきや,試合終了間際に相手に 1点を入れられてしまいました.2-2で引き分け.
対Cornell BigRed(アメリカ)戦
2000, 2002, 2003年の世界大会を制覇している常勝チームです.2002年の世界 大会でも対戦していますが,あっという間にコールド負けしました.今回も, さすが強豪だけあって一方的に攻め込まれましたが,こちらの守備陣,特にキー パーの素晴らしい働きのおかげで相手はなかなか点を入れられません.しかし, やはりわずかな隙を突いて鋭いシュートを決められてしまいました.頑張って 守りましたが,結果は,0-3で敗北.前回の対戦に比べると大きな進歩です.
7月15日
対vienna cubes(オーストリア)戦
このチームも最初は調子が悪いようでしたが,調整を繰り返しています.対す る私たちのチームも,試合の度に問題が発生しましたが,できる範囲でその対 策をし,これまでで一番いい動きをしています.この試合は,Dグループ予選 の最終試合でしたが,この時点でもまだ2位が確定していません(1位は Cornell BigRed).この試合で引き分けても,わずかな差で私たちのチームが 2位となり,決勝トーナメント進出できます.相手は強敵ながらもそれを期待 してしまいます.だが,しかし,相手は強かった.まず出だしでこちらの反応 が鈍く,キックオフのキックがいきなりゴール.その後も,相手の巧妙なプレ イに翻弄され,失点を続けてしまいました.しかし,試合終了間際に,一矢を 報いて1点を返しました.結局,1-6で敗北です.
参戦のまとめ
結局,私たちOMNIチームの予選の成績は,1勝2敗1分で,グループの中では4位 という残念な結果に終わりました.
この大会では,チームのパワーアップを図るべく,新型のロボットを投入し, 新しい天井カメラシステムを使いました.それらおかげで,ロボットの移動能 力やシュート能力は非常に向上し,物体の認識性能もよくなりました.たとえ ば,最後の試合で強敵に対して1点を報いたのは,新型ロボットのシュート能 力のおかげです.しかし,個々の性能を活かしてシステム全体をうまく動かす ための調整は十分ではありませんでした.大会に参加したことで,システムの 様々な問題点が浮かび上がってきました.今回の経験を糧に研究を進めて,次 の機会に挑みたいと思います.
小型リーグの結果
Dグループからは,Cornell BigRedとvienna cubesが決勝に進出.優勝は,昨 年に引き続きドイツのFU Fighters,準優勝はCornell BigRed,3位はシンガポー ルのField Rangers,4位は愛知県立大学とアメリカのカーネギーメロン大学の 合同チームのCMRoboDragons.日本勢で,他に決勝トーナメントに進出を果た したのは,桐蔭横浜大学Toin Albatross.
おわりに
RoboCupは,教育のテーマとして大変優れています.いろいろな知識や技術が 求められますし,それがわかりやすい結果として現れます.勝つことだけが目 的ではないのですが,競争となると取り組みに熱が入ります.また,ロボット の協調プレイより前に人間のそれが必要となります.本学でも,RoboCupを研 究や教育にうまく活用していきたいと考えています.今後,学科を越えていく つかの研究室で協力して参加できればとも考えています.
なお,来年の世界大会RoboCup2006は,ワールドカップに合わせてドイツで6月 に開催されます. また,国内大会は,ジャパンオープン2006が北九州市で5月に開催されます.